つれづれ帖

千葉市美術館「鏑木清方と江戸の風情」(2014年9月9日~10月19日)◇しゃん日記②◇

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すっかり秋めいてまいりましたが、皆さまお元気でお過ごしですか?
千葉市美術館で開催中の「鏑木清方(かぶらききよかた)と江戸の風情」は、先日の「しゃん日記」でもご紹介致しましたが、今回は、展示されている作品の中から《今様浅妻舟》についての雑記を。
夜長のお供に、私の軽忽な戯言にお付き合い頂けましたら幸いです。

 

巨匠が仕掛けたオトナの遊びを愉しむ

荒磯模様の帯に五つ紋の着物。鼈甲(べっこう)の揃いの櫛と簪。一見すると、“風雅な女性が舟遊びをする画”のように見えますが、画題には《今様浅妻舟》とあります。
浅(朝)妻舟とは、滋賀県琵琶湖北東岸の朝妻(米原市朝妻筑摩)と大津の間を行き来していた渡し舟のこと。遊女を乗せて、夜泊の客を相手にしていた話でも有名です。英一蝶の《朝妻舟図》や、日本舞踊の「浅妻船」などでご存知の方もいらっしゃるでしょう。

そう、この作品に描かれているのは、「水の流れに身を任せるが如く、己の体を舟とする女」なのです。

烏帽子に水干という白拍子姿で表現されることが多い題材ですが、清方の新しいアイデアによって、舞台を江戸の隅田川に移したような、粋な女性の風姿を借りて描かれています。あらがえない宿命に弄ばれ、見知らぬ男の一夜妻となる女を、60歳を迎えた清方が、詩的な遊び心のある表現へと昇華させました。

日本文化を豊かに育んできた「隠喩」や「本歌取り」などに見られる、所謂“分かる人にしか分からない”モノに溢れた《今様浅妻舟》。さっそく紐解いてまいりましょう。

画中に散りばめられた艶冶な記号

描かれている女性の、身八つ口の隙間をご覧下さい。わずかに覗く白い肌が、その奥に続く柔らかな肢体を想わせます。
形の良い足裏は僅かに反り返り、喜多川歌麿などが描いた女性のイメージと重なるようです。余談ですが、花魁や太夫たちが足袋を履いていないのは、金銭的理由からではありません。体の隅々まで磨き上げられた高嶺の花であることを誇示するために、素足をさらけ出しているのです。

袖に入れられた二つ立ちの琴柱紋は、男女を象徴しているのでしょう。裾には、白い露の散る芝露模様が……。

画面右下には、二本の舫(もや)い杭が伸びています。本来は、舟を繋ぎ止めておく為のものですが、これもまた、絵画的な興かもしれません。

杭に隠れるようにして、白木の下駄が描かれているのにお気づきでしょうか?脱いだばかりの様子から、今まさに舟の中へ入らんとしている事が分かります。舟の屋根が低いので、前挿しがぶつからぬよう気にしながら、中にいる客に目を配る様子が描かれ、絽目のある半襟や袖口から覗く緋襦袢からは、夏の着物を着ていることも分かります。舟中の客には、女性の腕や脚が、薄い着物越しに透けて見えている状況であると解釈できるでしょう。

この作品には、幾重にも計算された高度な仕掛けが様々に隠されていますので、実際に作品をご覧になることをお勧め致します。
記号の解読に挑戦するも良し、画中の“花”と戯れるもまた良し。
会期は10月19日(日)までです。
(中千尋)

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