美人画礼賛

《旗亭涼宵》小早川清|クールビューティー市丸の完璧な着物姿から盗め!

これだけはハズせない!着物姿の重要アイテム。

《旗亭涼宵》小早川清

夏の着物は難しいと思っていませんか?いえいえ、そんなことはありません。夏の着物を完璧に着こなすクールビューティー「市丸」さんから盗む「美人しぐさ」のテクニック!かんたんに真似できて、美人度が上がること間違いなしのツボをこっそり伝授致します。今すぐお試し下さいませ。

右の作品は、小早川清が描いた《旗亭涼宵(きていりょうしょう)》です。青さの残る畳が清々しさをたたえた夏座敷。簾(すだれ)越しの庭の青紅葉が夕照りに輝いています。もう間もなく日が落ちて、宵の口はすぐそこ、といった頃合でしょう。五つ紋の黒い絽の引き着を纏い、スラリとした風姿で登場する女。モデルは《聴雨》と同じく、昭和の歌姫・市丸さんです。

斜めに締めた粋な帯締めには、《聴雨》でも使用していた翡翠の帯留めが見られます。この翡翠があるだけで「夏の装い」という趣が出てきます。帯の下に締めた「しごき」は、涼しげな鴇(とき)色。袷の季節の紅のしごきとは違って、なんとも軽やかですね。絽の着物が透けて襦袢がかすかに見えるのも、夏ならではの醍醐味です。裾からは白地の撫子模様がチラリと覗き、清楚さを演出。
そして極めつけは、白い足袋です。足袋なんて大して重要ではない、と思っていらっしゃる方がいたら……チョット待って!着物姿を美しくする大切なアイテムの一つと言っても過言ではないのが「足袋」なのです。

足袋を笑う者は足袋に泣く?!

人々の目線が低くなるお座敷では、足袋は特に目に付きます。皺が無く、ぴったりと足にフィットした白い足袋は、清潔感にあふれ、とても気持ちの良いものです。市丸さんの足袋も、細身で足の形がわかるくらい小ぶりにできていますね。“おしゃれは足元から”などと言いますが、着物姿でも同じ事。美しい足袋は、それだけで着物姿をランクアップさせます。ということは、足の裏が汚れていたり、サイズの合わない足袋を履いていたら、悪目立ちしてしまいます。誂(あつら)えではなく、既製品の足袋を購入される場合は、ご自分の靴のサイズよりも0.5~1cm小さいものを選ぶと良いですよ。そして、替えの足袋はいつもバッグに忍ばせておきたいものです。

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手にしている丸柄の団扇(うちわ)にも注目してみましょう。描かれている香(こう)の図は、源氏物語の最終章「夢浮橋」であることがわかります。「夢浮橋」では、良い血筋に生まれ、美しい女性に成長したにも関らず、出家をして俗世間との交わりを絶ち、再会を乞う薫を拒み続けた浮舟が描写されていますが、それはまるで多くの浮名を流しながらも、生涯独身を貫いた市丸さんを重ねているようにも思います。
彼女に夢中になった男性は数知れないと言われていますが、この絵の作者である小早川清も、そのうちの一人であったようです。彼女をモデルにした同じ構図の作品を何枚も手がけており、秘かに想いを寄せていたと想像できます。今回の作品でも、丁寧に描かれた着物の絽目や画面全体へみなぎる気合の入った筆致から“恋のパワー”を感じます。

持ち方ひとつで差がつく「団扇(うちわ)」

さて、最後は美しく見える団扇の扱い方のコツについて。そもそも、団扇を扇風機の如くバタバタと扇いではなりません。「隣の人に風を送ってさしあげる」くらいの気持ちで扱うのが基本です。柄(え)の先の近くを軽く指先で持ち、手首を柔らかくしてゆったりと扇ぎましょう。市丸さんも指先で柄を持っていますね。ギュッと握り込むのは、あまり上品とは言えません。「そんなの全然涼しくない!」と思われる方……そのとおりでございます。夏の着物姿は、見ている方へ涼しさをお届けするもの。世のため人のため、ご自分の美のために、ご一緒に頑張りましょう!(と書きつつ、額に汗する自分でありました…/中千尋)

※今回ご紹介した《旗亭涼宵》は、島根県立石見美術館のコレクション展「涼をもとめて」(会期:2014年7月17日~8月25日)にて現在公開中。実際に作品をご覧になれるチャンスです!暑い夏には、美術館で涼しく過ごしてみませんか?
 

【作品解説】

昭和8年(1933年)に帝展で特選となった《旗亭涼宵》と、ほぼ同じ構図で描かれた作品である。着物の柄や背景は酷似しているが、こちらの作品は帝展で特選となったそれと比べて、人物の存在を強調するように、大胆にトリミングされている。顔付きは甘さを抑えて描かれ、凛とした雰囲気を持つのが特徴である。

【作家略歴】

小早川清(こばやかわきよし)1899~1948(明治32年~昭和23年)福岡市生まれ。19歳で上京し鏑木清方に師事。小児麻痺による後遺症があり、左手一本で絵を描いていた。清方門下生による郷土会に参加して研鑽を重ね、《長崎のお菊さん》で大正13年(1924年)の第5回帝展に初入選。その後も長崎の風俗やキリシタンを題材とした美人画を発表。昭和8年(1933年)には市丸を描いた《旗亭涼宵》が帝展で特選となっている。新版画の分野でも「近代時世粧」等で実力を発揮した。

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