美人画礼賛

《雪の宵》伊東深水|雪の日も美しく歩く極意とは

《雪の宵》伊東深水  1931年(昭和6年)紙本彩色 二曲一隻屏風 東京国立近代美術館蔵

雨の日&雪の日の着物

着物を着ておでかけする予定ができたら、その日の天気予報が気になりませんか?
雨が降ったらどうしよう?雨コートに雨草履、替えの足袋も用意しなくちゃ。泥が裾にはねたら、急いでクリーニングに出さないと大変!
お友達との気軽なおでかけならば、お互いに連絡を取り合って「明日は洋服に変更しようね」ということもできますが、結婚式やお茶会、弔事など、どうしても着物で参加しなくてはならない場合は、本当に困りますよね。

ところが、雨が降っても雪が降っても、いつも正絹の着物を着て、美しいたたずまいの人がいます。それは芸者さんです。
今回は、着物のプロフェッショナル「芸者」の美しさを、みごとに描いた作品をご紹介します。

雪の降る日も美しく

伊東深水《雪の宵》には、しんしんと雪の降る中を、ふたりの芸者が連れ立って歩く様子が描かれています。深水は、なじみの芸者さんをモデルにして、たくさんの美人画を描いています。

《雪の宵》伊東深水  1931年(昭和6年)紙本彩色 二曲一隻屏風 東京国立近代美術館蔵

雪の降る中、一つの傘に仲良くおさまる芸者がふたり。お座敷へ向かう途中でしょうか?
白梅には雪が積もり、灯籠にはぼんやりと明かりが灯って、なんとも幻想的な景色。
つぶし島田に「稲穂のかんざし」を挿していることから、お正月「松の内」であることがわかります。

彼女たちの左手のしぐさにご注目ください。左手で褄をとることを「左褄(ひだりづま)」といって、芸は売っても身を売らない芸者の誇りをあらわします。流れるような裾のドレープと、柳に結んだ帯によって、縦長のほっそりとした美しいシルエットが生まれています。

全体的に、ひかえめな色味の着物を着ているふたりですが、「赤色」が効果的に「色気」を演出していることにお気づきでしょうか?
玉簪(たまかんざし)、口紅、襟からのぞく肌着、帯揚げ、袖口・袂(たもと)・裾からのぞく襦袢、etc…
モノトーンや渋い色のお着物を着る時に、襦袢や帯締めだけ「赤色」を使って「挿し色」にするというワザ。これって、私たちにも使えるスタイリングですよね。

足元は、歯の細い日和下駄(ひよりげた)に爪皮(つまかわ)を引っ掛けています。地面が真っ白になるほどの雪の上を歩いているのに、爪皮の先に少し雪がかかるだけ。どうしたらそんな歩き方ができるのでしょうか?
ちょっとしたコツをつかめば大丈夫。以下でご紹介します。

雨の日&雪の日の歩き方

着物を着ているときは「内股で歩く」が基本です。歩くときには、内股になるように意識しましょう。(外股で歩いていると、男らしい後ろ姿になってしまいます。)
歩幅は小さく、さしている傘よりも、はみ出さないようにして歩きます。
自分の足の裏と履き物(草履・下駄)が密着していないと、歩くたびに脱げてしまい、自分の後方へ泥をはね上げることになります。雨カバーと一体化している草履は手軽ですが、鼻緒の調節ができないので、サイズ選びは慎重に。
雨コートは、かかとを覆ってしまうくらいの長さが良いです。

また、コートを羽織るまえに、着物の裾をまくり、腰の上までたくしあげて、帯揚げの上から差し込んでおくと、跳ね上がってくる泥が着物に着きません。(裾よけは化繊にしておいたほうが安心です。)
たくし上げた着物がズリ落ちてしまいそうで心配なときは、腰紐でしっかりと帯の上から結んでしまいましょう。外から見られても誰にもわかりません。
ただし、コートを脱ぐときにはご注意くださいませ。室内に入る前に、化粧室などで体裁をととのえておくのが良いでしょう。

これで、雨の日も雪の日もコワくない!いつだって、きもの美人でいたいですね。
(中千尋)

 

【作品解説】

雪の質感の表現、人物の描写、着物の色・柄・材質の描き分けなど、持てる技量をあますところなく発揮した意欲作。このとき伊東深水33歳。若き日の傑作である。二曲一隻の屏風の中に広がる宵の雪景色と、ひっそりと肩を寄せ合いながら歩く二人の芸者の姿は、映画のワンシーンのように美しい。あまたいる美人画家の中でも、深水ほどのデッサン力を持つものは数少ない。彼だからこそ描けた「瞬間の美」と言えよう。

【作家略歴】

伊東深水(いとう しんすい)1898~1972(明治31年~昭和47年)
東京深川生まれ。本名一(はじめ)。14歳で鏑木清方に入門。若い頃から頭角を現し、美人画のみならず肖像画や版画の分野でも才能を発揮する。古典芸能にも造詣が深く、小唄・清元・長唄・加東節などを嗜み、茶会では亭主となって客をもてなすなど、余技を越えた多才ぶりであった。師の清方が亡くなった同年74歳で没す。

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